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鎌倉物語 55

「そういえば、マクドナルドで話してたね。寿福寺で、君が抱えてきた疑問や問題を解決するためのヒントを得たって。たぶん、僕の感覚もそれに近いはずだよ」
 明子は地面に視線を落とし、肩でため息を吐き出した。
「これまで君は、死の世界を身近に感じながら生きてきた。でもその一方で、生きることへの憧れもあった。だからこそ、君は僕と会うようになった。手紙に書いてあった通りだ」
「もう、やめて」
 その声は小さな社殿の壁に乾いて反響した。
「何も考えたくないの」
彼女は目を閉じて首を横に振り、感情を抑えるように言い捨てた。
「疲れ果てたの」
 地面に落ちた葉の転がる音が耳に入ってくる。辺りは順調に明るくなっている。
「あなたとはもう会えない。別れなければならないの」
 彼女はそう言ってから唇をさらに固く結び、ボストンバッグを握りしめて歩き去ろうとした。
「待ってくれ」
 僕が声を大きくしても、明子は足を止めない。むしろ足取りを速めようとする。僕は先回りして行く手を塞ぐ。彼女はよけて進もうとする。
 それで僕は、彼女の両肩に手を遣り半ば強引に足を止めさせる。小さく肩で息をしている明子はこれまで僕が抱きしめてきた女性とは別人のように思える。
「別れないと言っているわけじゃないんだ。ただ、このままジ・エンドというのはいくらなんでもさみしすぎるじゃないか。三年間も一緒にいたんだ。もっときちんとした別れ方というものがあるはずだ」
「私が感じていることは私にしか分からない」
「だから話を聞いてくれと言ってるんだ。僕はさっきここに来ながら君の感じていることにやっと寄り添うことができたんだ」
 明子は肩で息をするのを止めた。そして「聞きたくないの」と弱々しくささやいた。
「それも分かってる」
 僕は言った。
「これ以上僕の話を聞くと、別れられなくなるからだ」
 明子は目を軽く閉じたままやはり首を横に振った。僕は彼女の両肩からそっと手を離す。彼女はもう走り去ろうとはしない。たしかに疲れ果てている。
「でも僕をこの場所に呼んだのは君自身だよ」
 心の中にある言葉を率直に吐き出すべきだと思った。
「あれほど几帳面な君がどうしてパソコンの履歴を残していたんだろう? 僕の部屋でウエブ・サイトを見る時でさえきちんと削除して帰るのに」
 明子は目を開けて、僕の喉元辺りに目を遣りつつ何かを言いかけた。しかし口が開かれる前に僕は次なる言葉を彼女にぶつけた。
「君はたしかに僕と別れなければならないと思っているのだろう。でも、その裏側には全く逆の思いが貼り付いている。つまり『別れなければならない』と言い聞かせようとするのは『別れたくない』という思いを無理に打ち消そうとするからじゃないか」
 明子は何かを言うのを諦めたように見えた。
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Author:スリーアローズ
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