スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

鎌倉物語 62

 僕は光源氏と源義経を同時に思い浮かべてみた。
 二人とも詳しく知らないところが多いが、両者は何かしら重なり合うところがあるな気もする。あくまでイメージ上の話だが。

「義経は壇ノ浦の戦いで平氏討伐の最大の功労者だったのに、兄の頼朝はそれを良くは思わなかったのよ。義経の方も次第に自立を目指すようになってね。それで、ついに頼朝は義経を殺す命令を下すの」
「まさに独裁者だな」
「将軍ってそういうものよ。戦国時代を生き抜いたリーダーたちの陰では、多くの犠牲者が出た。義経もその一人。彼は悲劇のヒーローなのよ」
 彼女は冷淡に説明した。

「頼朝から討伐令が出された義経は兵力を建て直すために九州へ逃れようとするの。でも、頼朝軍は本気で迫ってくる。それで一行は奈良の吉野山に身を潜めて機をうかがった。その時に一緒にいたのが静御前。だけどそんな山奥にいても見つかってしまってね、義経はどうにか逃げ切ることができたけど、静御前は捕らえられてしまった。彼女は身重だったのよ」
 明子は小さく動く指先に視線を落としながら話を続ける。

「静御前は一緒にいた母親と鎌倉に連行されて取り調べを受けるの。で、ある日頼朝が鶴岡八幡宮に参拝した時に、静御前に舞踊を奉納するように命じるの。遊女の中でも静御前は舞の名手として知られていたのよ。彼女はどうしたと思う?」
「難しい質問だ・・・。最後まで固辞し続けて処刑されるとか?」
 明子は首を横に振った。
「すばらしい演舞を舞うの。そして踊りに合わせて歌を詠むの。『吉野山 峰の白雪 ふみわけて 入りにし人の 跡ぞ恋しき』ってね」
「どういう意味なの?」
「吉野山の雪を踏み分けて消えた義経の跡が恋しいっていう意味よ。頼朝の前でそんな歌を詠んだわけだから、激怒されるのは当然のこと。ましてや幕府の拠り所となる八幡宮での出来事とあって、周囲は騒然とするのね。でもその騒ぎを鎮めた人がいる。誰でしょう?」
 分からない、といつもの返事をすると明子は指先の動きをぴたりと止めて答えた。
「北条政子。頼朝の妻で、三代将軍実朝が殺された後、執権政治を始める尼僧ね」
 その話を聞いて、寿福寺の実朝の墓の近くに政子のやぐらがあったのを思い出す。
「頼朝のことだから、その場で静御前を斬り捨てるくらいのことはできたはず。それくらい彼もぴりぴりしてたのよ」
 明子はあたかも実体験を回顧するかのように言う。
「その緊迫した場面で政子は頼朝をなだめるの。私が静御前の立場だったとしても、おそらく同じような抗議行動を取るでしょうって」
 明子は窓のふちに向けて優しいまなざしを送る。

「というのも、元々は政子も頼朝の愛人だったのね。彼女の父は頼朝の敵で、伊豆に置かれた頼朝を監視する立場だったの。それが、父の目の届かないところで政子と頼朝は恋に落ちてしまった。その後政局が不安定になって、二人は結婚するのよ。そういう経験をしているだけに政子は静御前に同情するところもあったんだろうね」
「かなり複雑な世の中だったんだなあ」
「だからこそ本物の愛が生まれたのかもしれないね」
 明子はそうつぶやいた。
「愛がいつもモラルの内側にあるとは限らない。愛は時に不安やさみしさをバネにして大きくなるのよ」
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

最新の文章
リンク
みなさまの声
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
目次
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。