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鎌倉物語 65

 江ノ電のホームにはすでに列車がスタンバイしていて、アイドリング音を唸らせている。緑色のソリッドカラーで塗られた車輌からはブリキのおもちゃのようなクラシカルなぬくもりが放出されている。
 車内はすでに乗客が座り込んでいるが、満席ではない。僕たちはちょうど二人分空いていた席にはまり込む。
 発車のベルが鳴る中、白髪の女性が一人、慌て気味に入ってきたのを最後に扉が閉まり、列車はのっそりと動き出す。

 窓の外にはありふれた住宅地の光景が広がる。生活の匂いが届いてきそうなほどに家々が間近に迫る。
「もちろん、大仏に行くのは初めてじゃないよね?」
 僕はそう聞いてみる。
「二回か三回は行ったかなあ」
 明子の声が震えているので少し心配したが、列車に揺られているだけのようでもある。
 鎌倉駅を出てまもなくして和田塚駅で停車する。だが、辺りは住宅の路地裏にしか見えない。こんな所に駅があるというのがまず驚きだ。
 それが、由比ヶ浜駅を過ぎたところで住宅地はいったん終了し、辺りは次第に鉄道の沿線的な風景になっていく。
「さっきのホテルの辺りに戻っている感じね」
 彼女の言うとおり、たしかに僕たちはホテル「NAGISA」の建つ海岸の方へと再び南下している。
「次の駅で降りるのよ」
 明子がそう教えてくれたかと思うと、いかにも駅舎らしい佇まいの駅舎が見えてきた。長谷駅だ。

 ホームに降り立つと同時に、潮風の洗礼を受ける。
 明子はベージュの帽子を取り出して深めにかぶり、紫の眼鏡をしっかりとかけ直した。
 反対側のホームに停まっているアイボリーの車体にはカールおじさんとその子供たちが富士山や大仏のイラストに向かって楽しそうにピクニックしている絵が描かれている。
 テレビで見たことのある江ノ電の風情が、目の前に再現されている。
 北鎌倉駅とは全く対照的だ。

 長谷駅の駅舎を出ると、すぐに通りが伸びている。
「この道が大仏に続くんだな」
 僕はきょろきょろしながら言う。狭い歩道は思っていた以上の観光客で溢れかえっている。
「長谷観音前」の大きな交差点には力強い毛筆でしたためられた「国宝鎌倉大仏まで徒歩5分」の看板が標示してある。その交差点をまっすぐに進むと、観光客向けの商店が一気に増え、賑やかさを増す。
 ホテル「NAGISA」の奥さんが、今日のような平日にはなかなか客が来なくなったと述懐していた寂しげな顔をふと思い出す。

 振り仰ぐと、朱塗りの門はすぐ目の前に迫っている。
 仁王門という札が懸けられたその門を抜けると、白い石畳が続き、その先にはお馴染みの大仏がいきなり鎮座している。
 大仏は、曇天にカモフラージュするかのように灰色の体を風にさらして、鋭い眼光で僕を見下ろしている。
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Author:スリーアローズ
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