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鎌倉物語 67

「鎌倉の大仏さんと平等院の阿弥陀如来像の印相が同じだっただなんて、今初めて気づいた。鎌倉と京都は、ここでもつながってたのね」
 明子がそう漏らした直後に、突然強風が吹いて台座の周りの土埃を巻き上げる。観光客たちが小躍りする中、明子はジャケットの襟を立てて首を少しだけすぼめる。
「もちろん、前来た時は、ご主人も一緒だったんだね」
 言わなくてもいいはずの言葉がはずみで口から出てしまう。死者に対する優越(あるいは嫉妬?)があるのかもしれない。
「彼は信仰には興味がなかったけど、仏像は好きだった」
 明子は淡雪のような笑みを浮かべて返してきた。
「そういえば、二人で北鎌倉を歩いている時にたしなめられたことがあった。『どうせ人間は寿命が来たら死ぬんだ。今からあれこれと考えたって仕方ない』って」

 大仏に別れを告げて仁王門を抜けようとした時、ついに小雨がぱらつき始めた。霧雨と言った方がよさそうなほどの微細な粒だったが、今から参道を登ってくる人たちの中では雨傘の花もちらほらと咲き始めていた。
 明子は僕に、傘を持っているかと気遣ってくれた。これくらいの雨じゃまだ必要ないだろう、もし強くなればコンビニで買えばいいと答えると、彼女は安心した様子で、そうだねと返してきた。
 最後にもう一度後ろを振り向く。仁王門の間からは、人だかりに囲まれた大仏が不機嫌そうに座している。

「どうせ人間は寿命が来たら死ぬんだ。今からあれこれと考えたって仕方ない」

 サエキ氏の台詞《せりふ》が頭の中でくすぶっている。故人が生前いくら達観していたとはいえ、あの若さで死にたくはなかったはずだ。
 僕だって、いつ死ぬか分からない。
 高徳院の参道を歩く人々、そこにけむる霧雨、今から八百年前には名もない人々がこの場所に集い命がけで大仏建立に尽力した。彼らは何を思っていたのだろう?
 そして、彼らと僕の間に、いったいどれほどの差異があるというのだろう?
 そんな想像を巡らせていると、すきま風が入ってくるかのごとく、山本氏の姿が想念に入り込んでくる。
 彼は一体、誰なのだ?
「ねえ」
 明子は歩きながら横目でこっちを見た。
「最後にもう一カ所だけ寄りたいところがあるんだけど」
 山本氏の幻影がちらつく中、僕は応える。
「僕は問題ないけど、君の方はできるだけ早く帰りたいんじゃなかったのか?」
「うん、でも、せっかくここまで来たから、このすぐ先のお寺にも行っておきたくなったの」
 明子は、笑いとも戸惑いともつかぬ表情で前を向いている。
 風は、山から海に向かって吹いている。
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Author:スリーアローズ
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