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京都物語 379

 紫式部は『源氏物語』を執筆しながら、琵琶湖に浮かぶ満月に心を奪われた。この月を、愛しいあの方も見ているのだろうかと。その情景は「須磨」の巻で光源氏が都に残してきた藤壺を想う場面に反映された。
 度重なる恋に落ち、宮中に居続けることに気詰まりを感じた光源氏は、自ら須磨へと退いていた。にもかかわらず、これまでいつも手の届くところにいた藤壺との離別は、予想以上につらいことだった。会えなくなってから初めて感じる切なさ。互いに思い合っていれば心配などないとどこかでたかをくくっていた。だが実際は、距離の隔たりは精神的不安に直結していた。まだ大人になりきっていない光源氏が初めて知る苦悩だった。
 その別離の物語は、いうまでもなく作者紫式部の紡ぎ出した言葉の世界での出来事だった。つまりその苦しみは、ほかならぬ紫式部自身の心に突き刺さったものだった。
 紫式部は当時にしては高齢での結婚だった。しかも夫である藤原宣孝とは、親子ほどの年の差があった。結婚して3年、娘を授かってすぐに夫と死別したのも、決して予期できぬ不幸ではなかった。彼女ほどの才媛がどうしてかくも不可解な人生を送ることになったのか。その真相は謎に包まれている。その中で、彼女の長かった独身時代に秘密が隠されているという見解はほとんどの研究者の間で一致していることだ。
 紫式部は恋に落ちていた。しかも彼女の一生に重く横たわるほどの運命的な恋だ。できることならその恋を成就させたかった。だが、それはできなかった。なぜならそこには「事情」があったからだ。他人には決して明かされることのない、千年たった今なお謎に包まれた、永遠の秘密があった。
 紫式部は琵琶湖に浮かぶ月を見ながら、会うことのできない愛しい人のことを思った。そうしてその思いを、自らが仕立て上げた光源氏という男性に託した。
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距離の隔たり、精神的不安…
現代と昔で、恋に関して人が悩むことに、そう違いはないのですね。
同じ月を見ているということで、余計に切ない気持ちにさせられるような気がします。

続きも楽しみにしています。
作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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