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京都物語 406

『ドリーマー』は明るくて、どこか牧歌的な曲だ。太陽の日差しが大地に染みこむ時の香りさえ想像される。それを、小野リサが歌うことによって、かすかな哀感を帯びる。
 京都を出た途端に青空が濃くなってきた。曇った僕の心と反比例するかのようだ。新幹線の速度が上がるにつれて、なんだか、現実の世界に引き戻されているような気がする。さっきの警察官の言葉にこだわっているわけでもないが、たしかに「催眠術」から徐々に解き放たれているような錯覚を感じる。
 西へ進めば進むほど、日差しがきらめいてくる。京都にいた間ほとんど忘れかけていた潤沢な明るさだ。真琴氏の家の窓の外に降り続いていた雪が、まるで異国での出来事のように遠く感じられる。
 まもなく新神戸に到着した。六甲山の合間に作られた、薄暗い駅。ダーク調のコートを身にまとった人々の往来を見ていると、どうしても明子のことが思い出される。彼女はいったいどこへ消えてしまったのだろう?
 頭の中には、横川での記憶が立ち上がる。中原氏の話によれば、千日回峰行に出たのが明子の最後の姿だった。彼女は修行の途中でどこかへ消えてしまったのだ。中原氏は、そこに真琴氏が絡んでいると予測した。僕もそう思っている。だが、氏は不可解なことも話していた。明子は平安時代に生きていた。
 それこそ馬鹿げた話だ!
 とはいえ、あっさり反故にもできない。なぜなら、レイナもブログの中で同じようなことを言っていたからだ。
「・・・もしかして、明子さんは、藤壺?」
 ありえない! シートから体を起こして、僕は頭を掻きむしった。
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