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京都物語 408

 真琴氏の作品に共通するのは自らの実体験を基に描かれているということだ。さらに、それらは、実体験の少し前に発表されている。つまり、言葉が人生を予言する格好になっている。
 文字通り、真琴氏は言霊の世界に生きた。なかんずく、集大成である『藤壺物語』は、まさにこの作家の人生そのものだと言える。
 藤壺は義理の息子である光源氏との禁断の恋によって子供を産む。そのことが藤壺に罪悪感と恐怖心を与え、彼女は最終的には出家の道を選ぶ。この関係は、とりもなおさず真琴氏と貴博氏の秘密の恋に一致する。
『藤壺物語』は、原作である『源氏物語』に独自の心理描写を与え、あたかも今、禁忌の恋に落ちているかのような緊迫感を描き出した。
 とはいえ、1つだけ真琴氏の人生と異なるところがある。真琴氏は出家していないということだ。ここで僕は思う。真琴氏は自分の人生を明子に仮託した。すなわち自分の代わりに明子を出家させた。
 ただ、それは真琴氏が意図的に仕組んだことでもないような気もする。いくら真琴氏とはいえ、そこまで全能な存在でもなかろう。すなわち作者の力ではなく、この人が作り上げた言葉の力が、明子を物語の中に巻き込んでしまったのではないか。
 突然ipodの音楽が停止した。どうやら充電が切れてしまったようだ。それも仕方あるまい。1年間も起動しなかったのだ。僕はイヤホンを外し、再びシートに深くもたれかけた。通路を挟んだ隣の席では、井伏鱒二に似た初老の男性が口を開けて眠っている。そこに瀬戸内の日差しがふんだんに降り注いでいる。
 明子は本当に『藤壺物語』の中に連れ込まれてしまったのだろうか? 
 不毛とも言える想像を巡らすうちに、僕にも眠りが襲ってきた。
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