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キラキラ 137

「なんだか話がややこしくなってるんだな」と僕は言い、奈月のふくらはぎにちらと目を遣った。
「ですね。明石の君が京都に上がってくるまでには、いろんな紆余曲折があったんですよ。彼女と光源氏と紫の上との、いわば三角関係ってやつですね」と奈月はしおりに目を落としたまま応えた。
 バスは堀川通を通過した。次はようやく四条大宮だ。自転車を使った方が間違いなく早いだろう。だが、夕刻に向かって流れる京都の時間を眺めながらバスに揺られるのも悪くはない。
 気がつけば、車内は乗客であふれ返っている。ただ、吊り輪につかまっている人たちも、おそらくはこの混雑に慣れているのだろう、特に苦にしているとしているというふうもなく、思い思いの時間を過ごしているように見える。中年女性たちは扇子を手にして巷の噂話をしているし、女子高生たちは部活動の人間関係の話に盛り上がっている。車内は、意外と賑わっている。
 そんな中、僕と奈月は隅の方でじっとしている。ひまわり畑に紛れてしまった違う種類の花のようだ。学生時代、奈月はひまわりのような存在だったことを考えると、やはり時間の経過を感じずにはいられない。それは、世の中に流れる客観的な時間ではない。佐賀の実家に帰り、父の介護をし、そして東山と別れた後で小学校教師への夢を諦め、パート勤めの会社の奥さんに紹介してもらった人ともうじき結婚を控えている、奈月の内面に刻まれた誰にも共有することのできない時間の流れだ。
 そんなことを考えると、思わず奈月の髪を撫でてやりたい衝動に駆られる。
 すると彼女はふっと僕の方を見て、「やっぱり光源氏って身勝手ですね」とつぶやきかけた。
「明石の君を抱きたい衝動を抑えられずに、彼女の部屋に強引に侵入しておきながら、その後になって急に罪悪感に責められるんです。しかも、そのことが紫の上の耳に入ったらまずいと思って、彼女に手紙を書くんですよ。なんか、ありえないですよね」とあきれ顔で笑った。
 だがその話を聞いて、僕の胸には何かつっかえるものがあった。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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