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キラキラ 143

「清水の舞台から飛び降りるような思いで好きな人にメールを送ったのに、返信が来ないと、私だったら胸が張り裂けそうになりますね。でも、最初は何とかプラスに考えようとします。あの人は今忙しいのかな、とか。それが、いくら待っても返信がなかったら、ほとんど絶望的な気分になっちゃいます。きっとそんな気持ちになるのは私だけじゃないと思うし、明石の君とか六条御息所も同じですよ。それに、都で待っている紫の上だって、源氏のことを思うと心配で心配で、毎晩眠れなかったはずです。いつの時代でも、人を好きになる気持ちに変わりはないです。だから、メールも和歌も心は同じです」
 奈月はまるで自分の体験を語るように力を込めた。その女心は、僕にも痛いほど共感できた。いや、恋の苦しみには、男心も女心も関係ないのではないかとさえ思われた。
 そんなことを考えていると、「話は元に戻るんですけどね」と奈月が口調を変えた。「さっきの明石の君と紫の上の話にも、新たな展開が訪れるんです」
「新たな展開?」
「はい。このタイミングで、都から光源氏にお呼びがかかるんです。そろそろ戻ってこないかと」
「それはまた偶然だ。明石の君が気の毒だ」と僕は言い、横目で奈月の方を見た。彼女の肩越しには京都の町が流れている。バスは太秦に入ったようだ。この辺りは道路も狭く比較的交通量もあるために、バスは再び低速ギアでの走行となった。路線図を確認すると、嵐山までの停留所は数えるほどしかない。
「光源氏がまだ須磨にいた時、夢枕に桐壺院が出てきましたよね。そして、住吉の神の導きに従って須磨を立ち去れと言いました。で、その桐壺院の霊はそのまま都に行って、時の帝である朱雀帝の枕元にも現れたんです。朱雀帝は桐壺院と弘徽殿女御との間に生まれた皇子です。源氏とは腹違いの兄弟になりますね。弘徽殿女御といえば、源氏の政敵の、こわ~いおばさんです。桐壺院は息子である朱雀帝を睨み付けて、目を患わせるんです。朱雀帝は源氏を須磨に流した罰が当たったんじゃないかと恐れます。源氏を都に戻そうとしたのは、そんないきさつがあったわけです」
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