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キラキラ 146

 思わず言葉に詰まる。「いやぁ、偶然だよ。俺も今、奈月と全く同じことを考えてたんだ。『思い通りにならないようで、じつは思い通りになっているのが人生』ってね」と、軽々しく返すことができなかった。あまりに一致しすぎて、ほんとうに驚いてしまったのだ。
 奈月は太ももの上にしおりを開いたまま、窓の外に視線を投げている。西の空は金色がかってきたとはいえ、高いところはまだまだ青い。バスの時計は18:17を示しているが、真夏の夕暮れは、そう簡単にはやってこない。奈月の顔の半分は、西日の金色に塗れている。
 僕は唾を呑み込んで、「今度は『思い通りになっているのが人生』だなんて、さっきの投げやりな言葉はどこへ行ったんだ?」と聞いた。すると奈月はゆっくりとこちらに顔を向け、「投げやり、でしたかね?」と逆に問いかけてきた。
「大学時代、どんなことがあっても奈月は前向きだったからな。いつも感心してたよ」
 僕がそう返すと、「まぁ、あの頃は何も考えてなかったですからね」と奈月は応えた。「ただ、『源氏物語』に話を戻すと、結局、光源氏はなんだかんだ言って、都に帰ることができたじゃないですか。つまり、思い通りになったわけですよ。これって、世の中の真理を象徴してるのかなって」
 奈月は達観したかのような口調でそう語った。
「光源氏だけじゃないです。絶望的な気分になっていた明石の君にしても、なんとなく、彼女の思っていた方に人生が流れてゆくんです」
「ということは、明石の君は、心のどこかで源氏と別れようと思ってたわけだ」と僕は先読みした。すると奈月は「残念、その反対ですね」と答えた。僕には彼女の言う意味がよくわからなかった。
「都に帰ることになった途端、またもや源氏の心の『癖』が出るんです」
「なるほど、明石の君との別れが恋しくなったわけだ」
「六条御息所が伊勢に下る前に、別れがつらくなったのと同じですね」と奈月はにっこり笑った。
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Author:スリーアローズ
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