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キラキラ 152

 奈月はそう言った後、ふと自信なさげな顔を浮かべ、うつむきながら微笑んだ。
 その横顔を眺めていると、僕も同じようなことを思っていると自覚した。たしかに見た目の美しい女性はいる。だが学生時代の僕は、大学を歩く女性の中で、どうしても麻理子でなければならなかった。
 麻理子は一見すると、気位が高く取っつきにくいように感じられたが、じつは細やかな配慮のできる女性で、アメリカを指向しながらも、いかにも日本の女性といった雰囲気をもっていた。
 だが、そうやって麻理子を愛していながらも、それでもなお僕は幸恵に惹かれた。初めての家庭教師で幸恵の家に行き、その丁寧に磨かれた玄関に立つ姿を見た瞬間、世の中にはこんな女性もいるのだとうっとりしたのをはっきりと覚えている。おそらく僕なんかには一生縁のない女性のはずだった。
 だが、一緒にお茶を飲みクッキーを食べているうちに、この人は何も特別な存在ではなく、僕たち学生ともあまり変わらない、親しみやすく瑞々しい感性を持っていることに気づきはじめた。
 そのうち幸恵との時間にくつろぎを感じるようになった。あの人は上品さの中に、ゆとりをもっていた。もちろん、夫は大病院の医師であり、経済的にも時間的にもゆとりがあったのは間違いない。ただ、そういうことも含めて、彼女には、何があっても動じぬほどの懐の深さがあった。僕は、幸恵のそんな雰囲気に憧れたのかもしれない。
 しかし、その恋もあえなく散ってしまった。憧れはたんなる幻想だったのだと何度も思おうとした。だが、幸恵の容姿ははっきりと思い出せないにしても、彼女の雰囲気、つまり『けはひ』や『にほい』はずっと僕の心に染みついている。あの恋に嘘はなかったのだ。
 無意識にため息が1つこぼれた時、入れ替わるようにして奈月の細い声が耳に入ってきた。
「明石の君の美しさは、『けはひ』や『にほひ』を越えるほどだったんです。じつは、そのことも東山君から教わったんですけどね。先輩と話をしてると、忘れたはずのことがどんどんと思い出されてきて、なんか、悲しくなっちゃいます」
 奈月の横顔を照らす陽光が次第にやわらかくなってきている。
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Author:スリーアローズ
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