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キラキラ 154

 奈月の話を聞いて、僕は改めて、さっき訪れた明石の風景を思い浮かべた。無量光寺は明石の入道が光源氏に与えた邸があったとされる場所だった。光源氏と明石の君が最後の夜を過ごした岡辺の家は、あそこから岡へ上がった所にあるわけだ。僕は、実際に『蔦の細道』を歩きながら感じた潮風や線香の匂い、それからシャワーのように降り注ぐクマゼミの鳴き声を思い出した。いくら時代は過ぎても、明石の地に底流する風情は変わらないような気がした。そう思った瞬間、『けはひ』と『にほひ』という言葉が同時に浮かび上がった。
「明石を去る直前に『藻塩』という言葉を詠み込んだあたり、さすが光源氏ですね」と奈月は言った。
「ただ、これまでの『藻塩』の詠まれ方と、少し違う気がするね」と僕は感想を述べた。
「違いますかね?」と奈月は首をかしげた。
「須磨で詠まれた『藻塩』は、基本的には、垂れるものだったじゃないか。つまり、つらい涙を連想させるものだった。でも、ここでは垂れるものじゃなくって、焼いて煙として立ち上ってゆくもの、なんか、今後の見通しがあるよね」
 僕がそう言うと奈月は次第に嬉しそうな表情になり、「なるほど」と声を上げた。その瞬間、長かった赤信号が青に変わり、バスは寝起き後のような不機嫌なエンジン音をくぐもらせながら動き始めた。
「なんか、先輩、東山君みたいなこと言いますね」と奈月はバスにゆられながらつぶやいた。
「それってさ、褒め言葉なの?」と僕が聞くと、彼女は少し考えた後で「まぁ、どちらとも言えないですかね」と笑って答えた。それから彼女は光源氏の和歌に対する、明石の君の返歌を読み上げた。
 
かきつめて あまのたく藻の 思ひにも 今はかひなき うらみだにせじ
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