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キラキラ 157

「六条御息所が消滅するって、彼女は死んじゃうの?」と僕はバス停を降りて少し歩いてから聞いた。
 奈月はその質問に対して即答せずに、「『源氏物語』は消滅と再生の物語だって東山君が書いてましたよね。役目を終えた女性は物語から退場させられて、その後に、新しい女性が再生されるんです。で、ここでは明石の君と光源氏の仲が親密になればなるほど、それまで愛人だった六条御息所の影が自ずと薄くなってゆくわけです」と、彼女が示唆した「消滅」の内容を明らかにしないままそう応えた。
「でも、光源氏の愛人って、六条御息所だけじゃなかったよな?」
「まあ、そうなんですけど、明石の君は六条御息所によく似ているって『源氏物語』にもはっきりと書かれてますし、何より、六条御息所が源氏から離れるために伊勢に下った直後の出会いですしね。つまり御息所はいらなくなっちゃうんです。ちょっと残酷な言い方ですけど。だけど、そんなことって現実にもありますよね。たとえば絶対に忘れられない人でも、新しい恋にのめり込んでいくと自然に忘れるものじゃないですか。恋の苦しみは新しい恋を見つけることでしか解決できないんです」
 奈月は思いの外饒舌に語った。婚約者のことを強く思うことによって、東山との破局で負った痛手を忘れたのだろうかと僕は考えた。だが、今朝明石で再会した時から一貫して、奈月は婚約者のことを詳しく話したがらない。結婚を間近に控えているはずなのに、新生活への希望が感じられない。だいいち奈月は今、僕と2人でここにいる。そのことを婚約者は知ってるのだろうか?
 昔から奈月は心の真ん中にあることを上手に隠すことが得意ではなかった。もし本当に婚約者のことを強く思っているのであれば、その思いは自ずと表に現れるに違いないのだ。
 そんなことを考えながら僕は隣を歩く奈月の存在を意識した。彼女の髪をまとめる花柄のシュシュが夕日に照らされている。そのうち僕たちは嵐山の商店街にたどり着いた。この時間にもかかわらず、まだまだ通りを歩く人は多い。左手には渡月橋が現れ、鏡のように澄んだ川面が空をくっきりと映している。
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