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キラキラ 159

 そんなことを考えつつ、改めて大堰川の川面をぼんやりと眺めていると、突然奈月が「先輩、ソフトクリーム食べません?」と提案してきた。「ほら、そこのお店の抹茶ソフト、そそられるんですけど」
 奈月は乙女のような瞳を店先に向けている。そこはまさに、前回ここに来た時、僕がバニラ味のソフトクリームを買ったその店だった。小さなみやげ屋といった風情で、軒下にはソフトクリームの模型が堂々と据えられている。クリームの部分が深緑色に塗られた抹茶ソフト仕様の模型だ。
「いいよ。じゃあ、ふたつ頼んでくれないか」と僕はコインケースをひっぱり出しながら応えた。すると奈月は「先輩、何味がいいです? 抹茶とバニラとマーブルと・・・」と聞いてきた。
 少し考えた上で抹茶がいいと答えると、奈月は小気味よい返事をした。それから僕たちは揃ってソフトクリームをなめながら、いよいよ渡月橋に足を踏み掛けた。彼女の手元を見ると、白色のソフトクリームが持たれている。
「さっきは抹茶ソフトにそそられるって言ったのに、結局バニラにしたの?」と思わず尋ねると、奈月は「なんか急に、バニラの方を食べたくなっちゃったんです」と答え、うれしそうに口を付けた。
 僕は奈月と同じ色のソフトクリームをなめながら歩いたあの日の自分の姿を辿りつつ、手に取った抹茶ソフトをゆっくり口に含んだ。思った以上に濃厚なほろ苦さが、たちまち広がった。
 渡月橋を歩いていると、スニーカーの底に木のぬくもりが伝わってくる。車道を車が通過するたびに、ガタゴトと振動も起こる。こうして歩いて橋を渡るということ自体、ずいぶんと久しぶりのことだ。
 歩みが進むにつれて、せせらぎの音も近くなる。目の前には金色がかった空を背景にした山々が黒く取り囲み、その所々には寺の屋根も見える。橋の真ん中あたりまで来ると、大堰川を抜ける風が心地よく感じられる。左手には鴨川が広く流れ、のっぺりとした京都市街の風景へとつながっている。
 橋を渡りながら、今から自分の知らない世界に足を踏み入れるような錯覚を感じ始めていた。
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Author:スリーアローズ
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