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キラキラ 162

 ホテルは嵐山公園に架かる「渡月小橋」を渡ってすぐの所にあった。山に近く、影になっているために、玄関は薄暗い。建物を見上げている時、遠くで鐘の音が響いた。けだるい感じの音だった。どうやら近くには寺があるらしい。線香の香りも風に運ばれてくる。そういえば、昼に明石の無量光寺に行った時にも線香の香りが漂っていた。それにしても、あそこを訪ねたのが今日のことだとはとても思えない。
 玄関に入っても、前回の記憶は甦ってこない。思わず「ここって、前と同じホテルだよな?」と奈月に問いただすほどだった。すると彼女は同じですよと平然と応えた。
「でも、ホームページに書いてありましたけど、おととしに全面改装したらしいですね。だから、あの時とはずいぶんと違って見えますよ。だって、けっこうどこにでもある和風旅館みたいな佇まいでしたもん」と奈月は言いながらフロントまで歩き、てきぱきとした動作でチェックインの手続きを済ませた。その後ろ姿は、まさに小学校教師そのものだった。
 館内には適度に冷房が効いていて、ほてった体をクールダウンしてくれた。ふんだんに使われている木の香りも心を落ち着かせた。和風モダンな雰囲気にしつらえられたロビーには、桜が刺繍されたソファがいくつも据えてあり、宿泊客たちがくつろいでいる。その向こうの大窓には嵐山公園と渡月橋がうかがえる。大堰川の川面には金色の夕焼けが揺らめいている。音楽的な風景でさえある。
「ここは、嵐山の一等地だね。いいホテルだ」と思わず僕はつぶやいた。
 奈月は「せっかくですもん、こういうところに泊まりたいですよね」と後ろで同調した。「改装して綺麗になってお得な学生プランはなくなってますけど、その分さらにリッチな気分になるじゃないですか。だって私たち、もう働いてるわけですから」
 穏やかに暮れてゆく嵐山の風景を眺めていると、前に幸恵のことを思って街に出た記憶がゆっくり遠ざかってゆく。奈月は僕のすぐそばにいる。
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Author:スリーアローズ
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