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キラキラ 169

 そんな表情を浮かべながらも、奈月は「分かりきってるじゃないですか。私はどこにいても楽しく過ごしてますよ」とかろうじて答え、刺身をつまんでビールを飲んだ。それから、浴衣の胸元をもう一度指で引っ張り上げて整えた。
 その後、部屋の中には沈黙の煙が立ちこめた。僕たちは膳の上に彩られた料理をそれぞれにつまんだ。
 接客係が揚げ物を運んできた後で、奈月はやおら立ち上がり、窓際に歩いてカーテンを開けた。
「きれいですね」
 彼女は窓枠に両手を置いてしみじみとつぶいやいた。
「渡月橋、見える?」と僕が聞くと、奈月は「見えますよ。外灯に照らされて、大堰川の上に浮かび上がってます」とすんなり答えた。それから少し間を置いて「なんか、夢みたいな光景ですね」と漏らした。
 僕はえび茶色の浴衣を着た奈月の後ろ姿をぼんやりと眺めた。東山とお揃いのジーンズやパーカを着ていたあの時よりも、ひとまわり小さく見えるのは気のせいだろうか? あるいは佐賀に帰って父の介護をするうちにやつれてしまったのかもしれない。いや、髪を後ろに小さくまとめているから、すっきりした印象なのかもしれない。ただ、浴衣の裾から出ている、高校時代体操で鍛えたふくらはぎには瑞々しいハリがある。奈月はまだまだ若い。これから幸せな人生をそのしなやかな脚で歩んでいくのだろう。
 そんな後ろ姿を眺めつつ、僕は手ずからビールをグラスに注ぎ入れ、それを飲んだ。
「ここは、明石の君と関係が深い場所なんですよね」と奈月は窓に映った彼女自身に語りかけるように言った。「東山君がこの辺のホテルに泊まりたかったのも、そういう事情があったんですよ」
 奈月はそう続けた後、窓際に置かれた籐の椅子に腰掛けた。
「なんだか、今が今じゃないみたいです。っていうか、私は私じゃないみたい。やっぱり、頭、おかしいですかね?」
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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