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キラキラ 176

 奈月の指さした画面上を見ると、たしかにそうなっている。この川の総称は「桂川」と記されているが、上流へ行くと「保津川」、渡月橋の架かる嵐山公園の辺りでは「大堰川」と名前を変えている。
「大堰川って呼ばれるのは、まさにこの辺りだけなんだ」と僕は改めてそうつぶやいた。
 奈月はスマートフォンを椅子の下に丁寧に置いた。コトと音がした。それから再びしおりを開き、ページをめくった。
「明石の君はさんざん悩んだあげく、入道の用意したこの大堰の地に姫君と一緒に住む決心をします。転居の日は順風が吹いて舟もすいすい進み、予定通りすんなりと京に入ったと書かれてます」
「源氏が須磨から明石へ移った時とよく似てるね。あの時もたしか神風が吹いたんだった」
 奈月は僕の方を見て、わずかに頬を緩めた。
「長年親しんだ明石を離れ、父とも別れ、しかも光源氏の住む洛中からも距離のある暮らしに、明石の君の心細さも募ります」と奈月は同情気味に続けた。「ただ、明石の入道は娘の新居を趣のある雰囲気にしつらえていました。それに、この川岸はどことなく明石の海辺を思い出させてくれたりして、明石の君にとっては不思議と場所が変わったような気がしなかったようです。だから彼女は昔のことを思い出しながら、少しずつ新天地での生活に慣れていったんです」
 奈月は自らの過去を回想しているように見える。
「大堰に到着した夜、明石の君は琴をかき鳴らします。すると音色に合わせて松風が吹いてくるんです」
 僕は奈月の話に耳を傾けながら立ち上がり、窓の外を眺めた。外灯に照らされた渡月橋が嵐山公園の向こうに白く浮かび上がっている。ぼんぼりのような街の明かりも大堰川の川面に揺れている。
「それに、この大堰の地には、もうひとつ偶然がありました」
「偶然?」
 嵐山公園の草木がかすかにざわついている。少し風が出てきたようだ。
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Author:スリーアローズ
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