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キラキラ 181

 奈月はグラスを窓枠に置いて、その横に両手をついた。
「さっき先輩は、『人間って、適応してゆく生き物だ』って言ったじゃないですか。きっと、その通りなんですよ。ただ、それって、悩みを切り捨てることでもあると思うんです。世の中の『強い人』っていうのは、そういう生き方が上手いのでしょう。でも、よく考えると、悩むのは、大事なことだから悩むんですよ。どうでもいいことについて悩むわけないじゃないですか。だから私は、悩みから逃げるために諦めたり適応したりすることに対して、どうしても寂しさを感じてしまうんです」
 奈月はまだ若いのだと思った。だからこの時点で彼女に何を言おうと彼女には届かない。そんなことを考えながら黙っていると、奈月の方が先に口を開いた。
「先輩には、私の心の深いところまでは、たぶん分かってもらえないんだと思います」
 その言葉は僕の心を寒くした。僕はますます何も言えなくなった。
 奈月は改めて窓の外に視線を投げた。ぼんぼりのような嵐山の街の明かりの数はさっきより少なくなっているように見受けられる。奈月は明かりの奥の闇を見ているようだった。光源氏が造営した御堂や、源氏と六条御息所の別れの舞台となった野宮のあった方向だ。
 奈月は「でも、結局は、『思い通りにならないようで、じつは思い通りになっているのが人生』なんですよね」と、ここへ向かうバスの中で話したことを反芻するかのようにつぶやいた。
「今は諦められないって騒いでいながら、いざ新しい生活が始まったら忘れちゃうんですかね」
 奈月はそう付け加え、自嘲の笑みを浮かべながらため息をついた。僕には彼女の言わんとすることがよく呑み込めなかった。
「先輩、私、男に生まれればよかったです」と今度はそんなことを口走り、身寄りのない捨て猫のような目をこっちを見上げた。たまらず僕は彼女の髪にそっと触れた。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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