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キラキラ 182

「・・・ねぇ、先輩」
 隣で寝ている奈月がささやいた。その小さな声は、不思議と、明かりの消えた部屋にくまなく響き渡ったような気がした。戸の障子には、めっきり少なくなった嵐山の街灯が蛍の光のようににじんでいる。
「そっちの布団に行ってもいいですか?」
 奈月がそう言うと、僕の口からは「いいよ」という言葉が出てきた。
 明石から京都に入る新幹線の中で、奈月と同じ部屋に泊まることについて僕は抵抗を覚えた。渡月橋を渡ってこのホテルに近づいた時、自分はいったいどこに向かっているのか分からなくなって身体がこわばった。だが、もはやそれは過去の感覚だ。「人はみな、諦めることによって事実を受け入れて生きてるんだ」と奈月に語ったばかりのことが、今自分の中に起こっている。
 奈月は僕の布団の上に転がってきた。彼女の身体が僕に触れる。新しい世界に入り込んだような錯覚を感じる。奈月と出会ってから10年以上になるが、その間知ることのなかった世界だ。
「静かですねぇ」と彼女は天井を見上げて言った。「こうやって夜になると、今も千年前もあまり変わらないような気がしますね」
「でも、さすがに平安時代にこのホテルはなかっただろう」と僕が言うと、奈月は「もう、先輩って、ほんとに夢がないですね」とため息混じりに返してきた。
「いや、夢じゃなくて、事実だ。今は平安時代じゃない」と僕がさらに返した時、障子の外の窓ガラスに風が当たった。
「明石の君が初めてこの大堰に引っ越してきた夜、琴の音色に松風が絡み合うんですよね」と奈月はさっき窓際で話したことを改めて持ち出した。
「松風って、待つ人のいる方から吹く風でもあるんですよね」と彼女はしんみりと言った。
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Author:スリーアローズ
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