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キラキラ 185

 窓からの風が強さを増した気がする。それに伴って、草木のこすれる音も一緒に入ってくる。まるで生きているようだ。
 すると奈月は「あれっ」声を上げた。窓際に立つ浴衣姿の彼女は、しおりを手に取ったまま、のぞき込むようにして外を見ている。「あれは、松じゃないですか?」
「まつ?」と僕は聞き返した。
「ほら、やっぱり松ですよ」と奈月はくり返した。
 僕は布団から起きあがり、一緒になって窓の外を見た。ホテルからの明かりによって、生い茂っている木々の様子がほのかに照らし出されている。枝はくねくねと曲がっている。まるで何かを思い悩む人たちの列のようにも見える。
「ほんとうに松か?」と疑いにかかると「どう見ても松ですよ」と自信たっぷりの答えが返ってきた。「それに、なんとなく松の香りもするじゃないですか」
 奈月はそう言ったが、さすがに香りまでは判別できなかった。
「さっきは気づかなかったですね」と奈月は興奮気味に続けた。僕は布団に戻り、寝っ転がった。
「ひょっとして、ホテルごと平安時代にタイムスリップしたんじゃないか? 奈月が今も平安時代も変わらないとか、おかしなことを言うからだよ」と僕はからかうように言った。
 外からは次の風が入ってくる。部屋の外に松が生い茂っているのであれば、紛れもない「松風」だ。僕は首筋ににじみ出た汗を枕元のタオルで拭き取りながら「待つ人がいる方から吹く風」と頭の中でつぶやいた。改めて奈月の後ろ姿に目を遣ると、月の薄明かりを前面に受けたその身体は、奈月の形に切り取られた影のように映った。影は、さっきの和歌をもう一度口ずさんだ。
 
かはらじと 契りしことを 頼みにて 松の響きに 音を添へしかな
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Author:スリーアローズ
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