スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

キラキラ 186

 その朗読の声は、奈月のものとは思えないほどに低かった。読み上げる速度の遅さと相まって、何となく不気味な調子に響いた。
「ずっと待ってたんです」と窓際に立つ影は、声の低さを保ったまま語りかけてきた。「だって、それしかできなかったんですもの」
「まつ?」と僕の口からさっきと全く同じ言葉が出てきた。その時、また風が入り込んできた。たしかにそう言われてみれば、松の香りが感じられる気もする。
「待つことは、信じることでした」と影は言う。「でも、信じることの裏側には、叶わないかもしれないという不安が常にひっついてるわけで、だから、信じることは耐えることでもありました。ずっとそうやって耐えてきたんです」
「奈月?」と僕は影に向かって言う。だが、影は動かない。
「最初から分かってたんです。待っても無駄だってこと」と影は続ける。だがそれは、誰に向けられた言葉かなのかはっきりしない。
 その瞬間、なぜか琴の音が耳元にちらつきはじめる。さっき奈月が、源氏が明石の君のために琴を演奏したという話をしたからだ。そのせいで、風呂にいく時にたまたま廊下のスピーカーから流れていた音が、耳の奥に残っていたにちがいない。
 だが音は頭から離れない。それは体系化された音楽ではなく、1つ1つの弦をつま弾く単発の音色として響いてくる。そのうち、音どうしが和音のように共鳴しはじめる。
 やがてそれらは不協和音のように揺れはじめた。その混乱の中、僕は本当にタイムスリップしているのではないかと疑った。
 不協和音がようやく治まったかと思うと、隣には、いつの間にか奈月が横たわっていた。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

最新の文章
リンク
みなさまの声
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
目次
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。