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キラキラ 201

 奈月の話を聞くうちに、さっき僕の胸に浮かんだ「自己犠牲」という言葉が、より濃くなってきた。
 苦しみから逃れるためには、悩みを自分から切り離すしかない。割り切って、捨てる。奈月にそれができれば、今頃彼女はこんな思いをせずに済んだはずだ。だが彼女は、自身で分析する通り、大切なものを切り捨てることができなかった。つまり、やさしい人間は、切ないのだ。
 僕はそんな奈月の髪をもう一度撫でた。今度はゆっくり、心を込めた。その時ちょうど、いったん止んでいた風が再び部屋の空気を揺らしはじめた。大堰川の水の匂いが感じられる。月はだいぶ高いところに上っているのだろう。夜空は染め物のようにじわじわと金色がかってきている。
「でも、先輩、今のは、ほんとうにたとえばの話なんですよ」と奈月は念を押した。
「何度も言いますけど、東山君と結婚したかったっていうわけじゃないんです。そうじゃなくって、人生の流れのことを私は言ってるんです。『縁』ですよ。さっき電車の中で話したじゃないですか。明石の君は光源氏と『縁』があった。逆に、六条御息所には『縁』がなかったって」
「奈月が六条御息所と重なるところがあるってさっきから主張するのは、そういうことなんだな」と僕がささやくと、彼女は「うん、まあ、それもありますかね」とどこか煮え切らない答え方をした。
「今になって、こんなことも思うんですよ。というのも、大学生の時には、『付き合う』ってことは友達とは違うんだって言い聞かせながら東山君に尽くしたでしょ。でも、そのこと自体が、じつは私の視野を狭くしてたんじゃないかなって」
 奈月はそう言い、今まで天井に向いていた顔をこちらに傾けた。
「あの頃、もう少しゆとりを持って東山君と付き合ってたら、もっと別の出会いがあったのかなぁ。そう考えると、やっぱり、中学生の時に大好きだった先生が人生に大きく影響してるんですよ。『人のため』という言葉に、私は縛られすぎてたんです」
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