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キラキラ 205

 どうやら僕はうとうとしていたらしい。二の腕の上には奈月はいない。
 慌てて上半身を起こすと、彼女は布団の上で、窓を向いたまま座り込んでいる。浴衣姿の影が月明かりによってくっきりと切り絵のように縁取られている。
「おい、奈月」と僕は声を出した。その声は不気味に響き渡った。まるで自分のものとは思えない。部屋の中には晩に飲んだビールの残り香がそこはかとなく立ちこめている。
「奈月」と僕は再び言った。さっきよりも低い声がもう一度響いた。それでも彼女は何も応えずにただ窓の外を見つめている。空には満月が居座っている。月明かりは部屋全体に降り注いでいる。思った以上に長い時間、僕は眠りについていたようだ。
 奈月の後ろ姿は、かぐや姫を想像させた。月の世界に帰る日が近づくにつれ物憂げになるかぐや姫。求婚した貴公子たちが必死に食い止めようとするが、抵抗むなしく彼女は使者たちに連れられて翁たちのもとを離れて行ってしまう。
 僕が胸を切なくさせていると、奈月は月の方を向いたままつぶやいた。
「先輩、私、道に迷ってしまったみたいです」
 さっきの声が僕のものだと思えなかったのと同様、この声も奈月のものとは思えない。プールの底から聞こえるかのような、不思議な響き方だ。
「私、間違った道に入り込んでしまったんじゃないでしょうか?」
 僕は唾をひとつ飲み込んで、「まだそんなことを言ってる」と返した。
「大丈夫だよ、奈月は幸せになるよ」
 僕がそう続けると、彼女は「私、いったい、どこへ行くんでしょう?」と追及するように問いかけてきた。その声は、宿命的と言えるほどに、哀しげに聞こえた。
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Author:スリーアローズ
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