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キラキラ 206

「奈月はもうじき結婚して、佐賀で幸せに暮らすんだ」と僕は答えた。そう言った後で、彼女がくれたうちわに描かれていたバルーン・フェスタの写真が思い出された。青空に向けて競うように浮かび上がる、色とりどりのバルーンたち。奈月の将来を象徴しているかのようだ。
 だが、その光景とは対照的に、月を見つめた奈月の背中は、依然として動こうとしない。
「子供を産んで、家を建てて、家族と一緒に暮らしていく。これまで奈月が大好きだった人たちに囲まれながら人生を送っていくんだ。諦めたり、切り捨てたりすることなんて何もない。奈月が思い浮かべていた通りの人生をこれから送ってゆくんだと思うよ」と僕は続けた。だが、その声もやはり乾いた感じで反響した。まるで頭蓋骨を棒で叩いているような響き方に聞こえた。
「思い通りにならないようで、じつは思い通りになっているのが人生、だよな」
 僕がそう言うと、奈月は「思い通りにならないようで、じつは思い通りになっているのが人生、ですかね」と確信を持てぬまま、言葉をなぞるように、声を出した。
「今は道に迷っているように思えるかもしれないけど、後できっと、今をなつかしく思い出す時が来るよ。その時になってはじめて、奈月の人生は間違ってなかったってことが分かるんだ」と僕は彼女の背中に向けて投げかけた。最初は奈月を励ますつもりで話していたが、そのうち僕の言葉にも力が与えられ、彼女は幸せに向かって着実に進んでいるのだという思いが強くなってきた。
 それから少しの間、僕たちの間には再び沈黙が横たわった。月の前には細い雲がゆっくりと通り過ぎてゆく。すると、突然、奈月が「先輩」と僕を呼び、それにより沈黙が破られた。
 僕は何も言わずに薄明かりに照らし出された奈月の背中を見た。すると彼女はこう言ってきた。
「抱いてもらえませんか?」
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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