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キラキラ 215

「どうせ、すべてのことは、過ぎ去ってゆくんだ」
 僕はこれまでの体験を振り返りながらそう言った。
すると奈月は、「太宰治みたいですね」と僕の胸元に言葉を当てた。
「太宰治?」
「はい。『人間失格』の最後の場面で、廃人同然にまで落ちぶれた主人公が、そうつぶやくんですよ。自分には幸福も不幸もない。ただ、一さいは過ぎて行きますって。彼が生きてきた地獄のような人間社会の中で、唯一真理らしく思われたのは、そのことだけだって」
「いきなり太宰治が出てくるとは、奈月もなかなか文学少女だな」と感心すると、「『人間失格』は中学生の時に初めて出会ってから、今まで何度も繰り返し読んでますから」と答えた。
「やっぱり中学生の頃なんだ」と僕は言った。
「私はどうしても昔のことが忘れられないたちなんですね」と奈月は自嘲気味に言い、「でも私も、いつか、物事を諦めて、受け入れながら生きて行く日が来るんですかね」としみじみとつぶやいた。
「今回の旅は、俺にとっても、ここ数年にないくらいに楽しかったよ。ひょっとしてこれまでで一番かもしれないくらいだ。繊細な奈月のことだから、俺以上に今日のことが懐かしくなって、自分で言うように死ぬほどさみしく思える日が来るかもしれないな。でも、もっと時間が経ったら、必ず思い出に変わるって。しかもとびっきりいい思い出にね。もしそれが、諦めて受け入れるということならば、それは決して悪いことじゃないよ」と僕は応えた。奈月は何も言わずにじっとしている。
 しばらくして彼女は「それにしても、こんな格好で抱き合ってるのに、不思議です。先輩とならすごく自然な感じがします」と小さく言った。驚くことに、僕もちょうど同じようなことを実感していたところだった。心がみるみる安らいでゆくようだった・・・
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
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それも
とびっきり寂しい旅に・・・

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