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キラキラ 220

「何か、俺、奈月の気に障ることでも言ったかな?」と僕は訊いた。すると奈月は「何もないですよ。何を心配されてるんですか?」と答えてきた。彼女の表情や言いぶりには、嘘偽りは全く感じられない。
「じゃあ、先に帰るとか言わないでくれよ」と懇願するように僕は言った。
「でも、そればっかりは仕方ないです。どうしても帰らなければならないんです」と奈月は答えた。どこか割り切っているように映る。
「かぐや姫みたいだな」と僕は瞬時に思い浮かんだことを言った。すると彼女は衣類をたたむ手をぴたりと止めて「かぐや姫、ですか?」とつぶやいた。
「じいさんとばあさんと貴公子たちが必死で引き留めるのに、それを振り切って月の世界に帰ってしまう」と僕は説明を付け加えた。奈月はそれについて考えているようだった。僕にしては意外な反応だった。
 そのうち奈月は何かを言いかけたが、途中で言葉を飲み込み、再び衣類を整理し始めた。
「奈月も、ほんとうは帰りたくはないんだな」と僕は彼女が今口に出しかけたことを想像して言った。「帰りたくない」という言葉を奈月の口から聞きたかったのだ。だが奈月は「すみません、どうしても帰らなきゃいけないんです」と一辺倒な答え方をして僕の思いをかき消した。
 それにしても、僕は、奈月が先に帰ると言い出した途端に胸が締め付けられるような寂しさに襲われることになったわけだ。それは全く予期せぬ心の痛手だった。2人で仲良く一緒に帰れば、こんな気持ちにはなっていなかったはずだ。僕はもう、ほとんど必死になっている。
 すると奈月は「先輩と一緒に嵐山を歩きたいっていうのは、東山君との思い出をたどりたいわけじゃないんですよ。東山君と歩いた時に感じたこととか、あの時叶わなかったことを、もう一度取り戻したいんです」とさっき洗面台の前でした話をここで持ち出した。そして、その後で急に真顔に戻り、「先輩は準備しなくていいんですか?」と言ってきた。そうえいば僕は、ヨレヨレのTシャツと短パンのままだ。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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