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キラキラ 228

「普段は目に見えないもの?」と僕は聞いた。奈月は歩く速度を保ったまま「そうです」と答えた。
 竹林は風に揺らされて、さらさらさらと音を立てている。「さらさらさら・・・」
 さっきホテルの窓を開けた時、大堰川から流れる風が草木を揺らしていたのを思い出す。あの時奈月は「待つ人のいる方から吹く風のことを、平安朝の貴族は『松風』として、それとなく和歌に詠み込んだのです」と教えてくれた。そして、大堰川のほとりにも松が茂っていると指さした。この風こそが、まさに松風なのだと。僕は風に吹かれながら、平安時代と今との間に、大して時間の差はないように感じた。
 だが、その瞬間の記憶は奈月にはない。彼女は僕の記憶を、後になって「現実的な夢」だと一蹴した。
 とはいえ、「さらさらさら・・・」という音だけは鮮明に残っている。大堰川のほとりの草木の揺れる音と、野宮神社に続く道に生い茂る竹の音は、僕の心の中で完全に一致している。
「普段は見えないものって、具体的には、何だろう?」と僕は奈月の背中に向けて問いかけた。すると彼女は、ためらうことなく「魂の声です」と答えた。僕にとっては全く意外な回答だった。
「魂?」
「はい、魂です。この道を通ると、魂の声が聞こえるのです。それは普段は聞こえない。でも、ないわけじゃない。魂は心の中に絶えずくすぶっています。そうして、私たちを根底から突き動かしているのです」と奈月は続けた。その時、僕たちの左側の竹林が突如として途切れ、その間から広大な墓地が見えた。小道の間に2つほどある外灯の1つが、その光景を他人事のようにぼんやりと照らし出している。
「でも、時に、何かの弾みによって魂が勝手に動き出すことがあります。六条御息所はその状態のことを『あくがる』と表現しました。魂が身体から抜け出して、宙をさまようという意味です」
 昼間に電車の中で、東山のしおりを見ながら奈月が解説したことだ。六条御息所は、源氏を激しく思い、妻に嫉妬するあまり、『あくがる』状態になった。そうして、最後には物の怪と化して取り憑いた。
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