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キラキラ 229

「物の怪」と思わず言葉がこぼれた。
 その不吉な言葉は、六条御息所の人生と重なり合う。御息所の魂は物の怪となり、光源氏の妻である葵の上に取り憑き、最後には絶命させたのだ。
 だが今は、僕の目の前を歩く奈月の背中にも重なり合うような気がする。僕の知っている奈月は、天真爛漫で優しく、しかも慎み深い女性だ。彼女と「物の怪」という言葉が結びつくはずがない。奈月が昨日の姿から急変してしまったがために、勝手に嫌な予感を抱いているだけなのだ。
 広大な墓を通り過ぎた僕たちの両側には、再び深い竹林が生い茂っている。2つ目の外灯が近づくにつれて、あと少しでこの道も終わることが分かる。竹たちは相変わらず「さらさらさら・・・」とざわめいている。依然として、おそろしさを感じながら、僕は奈月の少し後ろを歩いている。
 すると、「やっぱり、この時間帯は、いいですね」という奈月の声が暗闇を突き抜けた。
「前に東山君と来た時には、昼下がりの時刻で、しかも秋の紅葉の季節だったから、この道は観光客でいっぱいでした。でも、私は、胸騒ぎがしたんです。そして、さみしくなりました。胸の真ん中に、ものすごく細くて鋭いキリで穴を開けられているかのように、心のある1点だけが、異様に痛みました」
 いつの間にやら、奈月は僕の真横を歩いている。僕の歩く速度が上がったのか、それとも奈月の速度が落ちたのかは分からない。
「東山と一緒だったのに、さみしかったの?」と僕は聞いた。すると彼女は「すごくさみしかったです」と言い切った。「あの時、東山君と歩きながら、私はいったい何をしてるんだろうって、ずっと思ってましたよ。私は本当に私なのかって、何度も自問自答しました。結論からすると、あの時の私は、本当の私じゃなかった。私は、東山君のために自分を犠牲にしていただけでした。あの時、私の中には、別の人がいました。この道を歩きながら、私はずっと、その人に会いたいって、胸を痛め続けてたんです」
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Author:スリーアローズ
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