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キラキラ 231

 それから彼女は黒木の鳥居の真下に立ち、「あぁ、やっぱり、ここへ戻ってきたんですね」と実感を込めてつぶやいた。そして、ゆっくりと、踏みしめるような足取りで鳥居をくぐった。
 境内は思ったよりも奥が広いようで、木々も生い茂っている。しかもかなりの大木のようだ。とても高いところから、聞いたことのない鳥の声が夜明け前の聖域の空気を揺らしている。「何しに来たのだ?」とも聞こえるし「ずいぶん待っていたぞ」とも聞こえる。
 奈月は、本殿の前に頭を下げ、賽銭を投入した後で両手を合わせた。たぶんそれは、神社を参拝する際の正式な流儀ではないが、むしろそちらの方が正しいと思わせるほどにこなれた所作だった。
 彼女が礼拝を終えた後、僕も両手を合わせた。とてもパンパンと拍手をするような雰囲気ではないので、僕も奈月の流儀に倣うことにした。本殿は小規模で、朱色で塗られているようではあったが、そのことすら確かめられないくらいに辺りはまだ暗い。
 すると奈月が「声が聞こえてきますね」と後ろで言った。きびすを返すと、僕と奈月の間を風が吹きすぎた。遠くではセミが鳴き始めている。
「魂の声?」と僕が問うと、彼女は闇の中でうなずき、「ここは本当にスピリチュアルな世界です。東山君と来た時に、私はそのことに気づきました」と言った。
「この神社は、今は縁結びのパワースポットとして、たくさんのカップルが訪れるんです。あの時も、境内は人であふれかえっていました。東山君は、私の隣でお祈りしました」
 僕はこの場所に立つ、学生時代の奈月と東山を思い浮かべた。驚くほどに鮮明に想像できた。
「東山君がどんなことをお祈りしたのか、私には分かりませんでした。でも、それ以上に、東山君には、あの時の私の心がどういう状態だったのか、絶対に分からなかったと思います」
 奈月は不吉なほどに落ち着いている。
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Author:スリーアローズ
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