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キラキラ 235

 僕は奈月に話しかけたかった。何か言うべきことがあるというわけではない。奈月の語りを聞くうちに、どこか違う世界に引き込まれてしまいそうで、おそろしくなったのだ。とにかくリズムを変えなければならない。とはいえ、彼女のどこにも気軽に割り込んでゆく隙などない。
 目の前の闇に立つのが本当に奈月なのか、どうしても疑わしい。たとえば彼女はスピーカーとしての役割を果たしているだけで、どこか別のところにCDプレーヤーとアンプが隠れているのではないかとさえ思うほどだった。
「光源氏は、自分が六条御息所を抱いたことで、彼女がどうしようもないほどの泥沼にはまっていることにすら気づかず、彼女の元に通わなくなってしまったのです。男って、そんな勝手なものなのでしょうか? 一度女を抱くと、満足してしまうのでしょうか? でも、女は違う」
 そう言って奈月はさっき折った榊の小枝を鼻の前まで持って行った。そうして、それと対話するかのように話を続けた。
「御息所はずっと待っていたんです。まさか自分は遊ばれただけじゃなかろうかと怯えたりしながら。それでもやはり源氏は会いに来てくれない。その結果、どうしようもなくなって、賀茂祭にひっそりと出かけます。遠くからでもいい、愛する人の姿を一目見たい、そう思い立ったのです。でも、あろうことか、御息所の牛車は、光源氏の妻である葵の上の親族が乗った牛車から乱暴に扱われて、壊されてしまい、彼女は大衆の面前で赤っ恥をかかされてしまうのです。『人笑へ』となることを何よりも恐れた御息所です。その車争いの日から、葵の上への嫉妬はますます燃え上がり、魂が『あくがる』ようになるのです」
「なあ、奈月」と僕は言った。すると彼女は話を一時停止して僕の方を見た。表情を確かめることができないほどに、辺りはまだ十分に暗い。
 だが僕には、その「なあ、奈月」の後に続くべき言葉など何もない。
 木立の間からは丸い月の姿が見える。発光ダイオードのように鋭く光っている。
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Author:スリーアローズ
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