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キラキラ 238

 奈月はそう言った後で、細く長く息を吐き出した。杉の木立の間に顔をのぞかせている月は、青い光を放ち続けている。奈月は闇の中で一度髪をかき分けた。僕は背中に汗をかいているのを自覚した。木立を吹き抜ける風が、野宮を満たす空気を揺らしている。
「さっきの話の続きですが」と奈月はだしぬけ気味に言った。どの話の続きなのだろうと僕は思った。
「1年と半年ぶりに再会した六条御息所と光源氏。2人はぎこちないながらも、徐々にお互いの距離を縮めてゆきます。特に御息所は、こんなに長い間自分を待たせたことの恨みもあって、そう簡単には心を許したくなかったのですが、やはり自分に嘘はつけませんでした」
 奈月がそう言った時、頭の中には再び千年前の想像が広がった。平安朝を代表する男女の最後の夜。それはこの野宮が舞台だった。
「光源氏が詠んだ和歌を聞いた六条御息所は、頑なに閉ざしていた自らの心が解けてゆくのを感じずにはいられませんでした。それを自覚した途端、これまで『あくがる』状態だった彼女の魂は、ようやく元の自分の中に収まり、目の前の光源氏へと向けられたわけです。源氏の方も彼女の心の中が手に取るように分かりました。源氏は御息所の近くにまで歩み寄り、彼女を抱きしめます。もはや御息所は抵抗などするはずがありませんでした。それから2人は深く愛し合います。会えなかった長い時間を埋めるかのごとく、お互いに求め合いました。なつかしい光源氏の体を自分の中に受け入れた御息所は、堰が切れたように、つらさや恨み言を源氏にぶちまけます。光源氏への計り知れない思い、過去に経験した葵の上への嫉妬。でもそれは決して本意ではなかった。なぜなら彼女は世間の『人笑へ』だけにはなりたくなかったから。にもかかわらず源氏は、苦しんでいる自分を顧みてはくれなかった。長いこと味わった生き地獄のような苦しみ。そのようなことを御息所は源氏に話したのです。すると、彼女は、自らの心の変化に気づきます。すべてをぶちまけた後、源氏をあっけなく許してしまっている自分がいたのです」
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