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キラキラ 239

 六条御息所はそうすることでカタルシスが得られたわけだ、と僕は言おうとしたが、口先で止めた。思ったことをつい口に出すことに、ためらいを感じてしまう。この場所の神聖さが僕の体内に浸透してきているのかもしれない。
 すると奈月は意外なことを言った。
「でも、この神聖なはずの野宮は、犯される場でもありました」
 僕は暗闇の中の奈月を見た。それは依然として、奈月の姿をしたある女性、と表現する方がよさそうだった。
「六条御息所と光源氏はこの聖域で着物を脱ぎ、裸になり、深く抱き合い、交わったのですから。『源氏物語』の中では細かくは描かれていませんが、そのことがかえって想像を駆り立てます。おそらくは、お互いに経験したことのないほどの濃密な愛が交わされたことでしょう」と彼女は言った。
 僕は改めて境内を見回した。静謐な空間に、木々や草むらに隠れる生物たちの密やかな息吹が感じられる。緑の薫りが立ちこめ、湿った大地の匂いは夜明けを予感させる。
「2人は、神に仕えるための禊ぎの場であるこの場所で、タブーを犯したのです。ただ、それは2人が歩んできた人生の象徴でもありました。元皇太子の妻である六条御息所は、主人の甥に当たる光源氏を愛したわけです。源氏の方も、父帝の妻である藤壺と愛し合い、不義の子供を産むという過去があります。御息所も光源氏も、世間体を気にし、高貴に生きようとしてきたのに、2人とも、自らの本能には打ち勝つことができなかった。野宮はそんな2人を引き寄せて、犯される場所になったわけです」
「犯される場所」と僕は言った。だがそれは、決して軽はずみで出た言葉ではないような気がした。
「私はこんなふうに考えます。つまり、野宮という聖域は、犯されることによって、より完全性を与えられたのだと」
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Author:スリーアローズ
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