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キラキラ 252

 奈月はそう言った後で、僕の方に近寄ってきた。苔を踏む音が、3回ほど暗闇を刻んだ。
「須磨はとにかく暑かったですね。久しぶりに先輩に会って、実はドキドキだったんですよ。何を言っていいのか、言葉に詰まってしまいました。須磨寺まで歩いた時は、汗だくでした。いろんな汗をかいちゃいました。でも、すごく楽しかった。海浜公園の近くで食べたうどんもおいしかったです。これまで食べた中で、間違いなく、いちばんおいしいうどんでした」
 奈月は、完全に本来の彼女に戻っていた。
「須磨から明石に行く列車の中で、先輩とたくさん話をしましたね。『源氏物語』の話でした。光源氏が、須磨でわびしい生活をしたこと、そうして、突然暴風雨が来て、海竜王やら桐壺院やら住吉の神やらが総出で光源氏に激励のメッセージを送る話でした」
 あの列車の中は十分にクーラーが効いていて、僕は話を聞きながら窓の外に広がる瀬戸内海を見ていた。内海なのに、とても雄大な海だった。そうだ。ちょうど明石海峡大橋を過ぎたところで、僕は何かの境界を越えたような気がしたのだ。その時ちょうど奈月が、明石海峡の辺りで畿内が終わり播磨の国に入るのだと教えてくれた。しかも、そこに浮かぶ淡路島は、古代から神話の舞台になっているという話も聞いた。奈月と過ごした昨日の光景は、まるで何年も前のことのように、急速に遠ざかっている。
「明石は日差しが降り注いでましたよね。もう、すべてが夢のようでした。光源氏が明石に入ってから人生が好転したというのも、うなずけますよね。明石の入道の屋敷跡に行くのに、ずいぶん迷いましたね。でも、全然苦じゃなかったです。行き先はどこでもよかったんです。先輩と一緒に歩くこと自体が幸せだったんです。明石を歩きながら、私はデジャブの感覚にとらわれたんですよ。東山君とこの野宮神社に来た時、竹林の道を歩きながら、先輩と一緒に歩けたらどれほど幸せだろうって思ってました。その光景が実現したような喜びを感じながら、明石を歩いたんですよ」
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