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キラキラ 253

 奈月はそう言い、さらに歩み寄ってきた。もはや彼女は僕の手に届くところにいる。表情だけでなく息づかいさえも近くに感じることができる。
「無量光寺は光源氏の屋敷跡でしたよね。つまりあそこは明石の入道が用意した浜辺の宿だったわけです」と奈月はしみじみと続けた。その話を聞いただけで、シャワーのように降り注いでいたクマゼミの鳴き声を耳の奥に思い出した。
「じつは、あのお寺の参道を歩きながら、夢が叶ったことを心の底から実感したんです。東山君と竹林の道を歩きながら願った風景が、あのお寺の中に、ぱぁーっと広がりました」と奈月は言った。
武家屋敷のような佇まいに溶け込むように造られた無量光寺の参道には、ソテツをはじめ、多くの緑が生い茂っていた。そう言われれば、たしかに竹林の道のミニチュア版のようでもある。
「先輩は、私がそんなに感激していただなんて、もちろん気づかなかったでしょ?」と奈月はいきなり話をこっちに向けた。僕は「ごめん、気づかなかった」と正直に答えた。すると奈月は「大丈夫ですよ。先輩には、私のこと、絶対に理解してはもらえないって、分かってますから」と、意地の悪い手品師のような言い方をした。もちろん、僕には返すべき言葉などなかった。
「私、無量光寺で先輩と歩きながら、ああ、私の大学時代は、この瞬間のためにあったんだって、ほんとうにそう思いましたね。あの大学のあの学部に入ったこと、それからサークルに入って、東山君と出会ったこと。彼とはいろんな思い出ができたし、楽しかったこともあれば、泣いたこともありましたけど、そういうことも含めたすべてが、先輩とあのお寺を歩くためにあったんだって妙に納得したんです」
 僕には、奈月が話をデフォルメしているようには見えなかった。また頭が混乱し始めた。
僕が投げかけた2つの質問はどうなったのだろうと思う。奈月は彼女のやり方で答えるとは言ったものの、僕には今のこの話が、質問の答にはどうしても聞こえないのだ。
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