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キラキラ 255

 それからしばらく、僕たちの間には沈黙が横たわった。その沈黙の中においても、心の内側はざわついていた。たとえばボクシングの試合で相手との間合いをとりながら出方を探り合っている時の静けさを想像させた。もっとも、僕にはボクシングの経験などないが。
 すると、「先輩」という奈月の声が僕たちの沈黙を破った。その声に呼応するかのように、木立の間を風が通り抜け、境内の草木を揺すった。草むらの虫や遠くのセミの声は、草木の揺れるさらさらさらという音にすべて包み込まれた。
 僕は奈月の顔を見た。口元はわなわなと震えている。まるで、この境内のすべてを統括するほどの重要な言葉が蓄えられているように見えた。
「私、麻理子さんのことを殺してやりたいと、本気で思ったことがあるんです」
 奈月は静かにそう言った。
 僕はまったく予期せぬ方向からピストルで撃ち抜かれたような感覚に陥った。痛みなど感じない。いったい何が起こったのか、すぐには判断できない。だのに、血だけはどんどんあふれだしてくる。
「ごめんなさい。そんなこと思っちゃいけないって、何度も自分に言い聞かせたんですよ。中学の時から、人のために生きるように教えられてきたのに、どうしてそんなことを考えるんだろうって、自分で自分が恐ろしかった」
「奈月が何を言いたいのか、俺には全く分からない」と僕は言った。脇腹からは依然として出血が続いている。ふと顔を上げると、奈月の頬には涙が伝っている。
「でも、頭では分かっていても、どうすることもできませんでした。いや、麻理子さんを殺してやりたいと考える自分を責めれば責めるほど、かえって、魂がいうことをきかなくなるんです。今思えば、あの時の私の魂は『あくがる』状態だったのかもしれません」
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Author:スリーアローズ
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