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キラキラ 265

 奈月は冷淡な調子で声を震わせた。そういえば、手に持っていた榊の枝はいつの間にかなくなっている。彼女の足下の暗がりを見回しても、そこには落ちていないようだ。
「東山君に殴られた痛みは、体にではなく、心に残りました。あの時のことがとにかくショックで、人間が信じられなくなってしまったんです。東山君も、それから麻理子さんもです。もはや東山君に対しては恋心みたいなものを感じなくなってしまいました。でも、だからといって別れるまでにはなりませんでした。うまく言えないんですが、私には『別れ方』が分からなかったのです」
 僕は奈月の人間不信のグループの中に、自分が含まれていないことにまず安堵した。その直後に、自分のずるさに落胆した。今が現実だと思いたくはなかった。夢であってほしいと願った。さっき奈月が言っていた「限りなく現実的な夢」であってほしいと。だが、風は僕の前髪を揺らし、緑の香りも鮮烈に立ちこめている。そうして目の前で奈月の涙をすする音がはっきりと聞こえる。これは、夢ではない。
「東山君への愛情は枯れてしまったのに、私は彼と付き合い続けました。彼は、何事もなかったように私と接し、前よりも積極的に話しかけてくるようにもなりました。そうして、私たちは、先輩たちと旅行をした何ヶ月後に、再び京都に行きました。東山君は、そのために一生懸命になって工事現場のバイトをしました。そこまでして、彼は私と旅行に出たかったんです。で、その時に、竹林の道を歩き、この野宮を訪ねました。東山君は、『源氏物語』の話をたくさんしました。この野宮は源氏と御息所の別れの舞台となっているのに、今では縁結びのパワースポットとして有名なんだということを何度も強調していました。あの時、私は、表向きは楽しそうにしていたけど、心の中では泣いていました」
 奈月がそう言った時、彼女の目の前の榊の枝が揺れた。だが風は吹いていないようだった。
「麻理子さんは先輩と一緒にいるだろうと思うと、はらわたが煮えくりかえりそうでした」
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Author:スリーアローズ
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