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キラキラ 266

 奈月がそう言った後、榊の木はまた静かになった。風が吹いているわけではないのに、いったい何が枝を揺らしたのだろうと一瞬不思議に感じたが、これ以上そんな現象に執心するほどのゆとりはなかった。
「麻理子さんが憎かった」と奈月は首を左右に振りながら言葉を絞り出した。「あの人は私と先輩を引き離したんです。私は、もはや気安く先輩に近寄るどころか、先輩の方を見ることすら許されなくなりました。でも、そんなことを知らない先輩は、大学で会っても、普通に接してくれました。私は、油断したらその場で泣き出してしまいそうだったんですよ。そして、あの旅行の後、東山君とここへ来た時、先輩と絶望的なくらいに離れてしまったような気がして、胸が引き裂かれる思いだったんです」
 奈月はそう言って、ため息をついた。草むらに隠れる虫の声が、超音波のノイズのように鼓膜に響く。
「昨日、明石の無量光寺で、1週間前に東山君も来ていたことを知った時、じつは、すごく嫌な気持ちを思い出したんです。偶然の陰に、麻理子さんの存在を感じたんです。私と先輩が2人で歩いているのを、この期に及んで麻理子さんに監視されているような気がして。麻理子さんは東山君の存在を思い出させ、私を混乱させようとしたんじゃないか、そんなことを考えました」
 依然として僕には口に出すべき言葉が見つからない。とりあえず今できることは、奈月を傷つけないようにしながら、時が過ぎるのを待つのみだ。僕はさっき、奈月が佐賀に帰った後も僕たちは会うことはできると言った。それに対して奈月は寂しそうに笑うだけで、何も返さなかった。だが今となっては、この先奈月とは会わないほうがいいように思う。
「東山君は、元々はマイペースで、私のことを気にかけるようなタイプじゃなかったですけど、それでも2人で京都に行った間の私の笑顔が偽りのものだってことには気づいていたと思うんです。でも、もしそうなら、私にとっては都合が良かった。彼の方から別れ話を持ちかけてくれれば話はすんなりといったはずでした」
 頭のとても深いところで、何かが裂けるような音がした。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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