スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

キラキラ 272

 僕に甘えるような奈月の喋りに慣れてゆくうちに、心はますます揺れだした。波打ち際の海水のように寄せては返しながらも、制御しがたい感覚はじわじわとこっちに近づいてくる。
「それから1年近く待った時、麻理子さんはアメリカに行ってしまいました。それで私はほっとしました。長いこと苦しめられてきた胸のつっかえが取れたような爽快感がありましたね。できれば、あの人のことはそのまま忘れてしまいたかった」と奈月は言った。
 その頃の僕はというと、麻理子の消滅によって、それまで気づくことのなかったさまざまな問題に直面していた。まず、彼女への罪悪感は薄れるどころか大きくなっていた。それは全く予期せぬ心の動きだった。その後ほどなくして、些細な衝突から幸恵とも関係が途絶えてしまうわけだが、それももしかすると麻理子の消滅が影響したのではないかとさえ思われた。
 これまで当たり前すぎて存在のありがたみに気づかないでいた人が突然目の前から消える。その際、死別であろうと生き別れであろうと、初めて胸に突き刺さる後悔がある。そんな、僕のような人間を、きっと愚かだというのだろう。賢明な人間なら、別れる前に感謝を形で返すことができるはずだ。
 愚かな僕は麻理子のいないアパートの部屋にこもり、胸の真ん中にできた空洞を1人見下ろす日々を送った。すべてが後の祭りだった。
「麻理子さんが旅立った後、先輩が声をかけてくれるのを期待したんですよ。でも、やっと運が私にも向いてきたと思った時、いきなりお父さんが病気になったんです。あの時、罰が当たったんだとまず思いました。麻理子さんのことをあれほど憎んだわけですから。私が佐賀に帰ろうと考えたのは、自分自身に不吉なものを感じ、自粛しなければならないと悟ったからなんです」
 もちろん僕には、当時の奈月の心理を洞察することなどできなかった。お父さんの介護のために佐賀に帰るという選択肢を設定したこと自体、頭の下がる思いだったし、奈月らしいとも感じたまでのことだった。だからこそ、東山の仕事が落ち着くまでは、故郷で家族の手伝いをしつつ試験勉強に励んではどうかと気安く助言できたのだ。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

作者

スリーアローズ

Author:スリーアローズ
*** 
旅に出ましょう
それも
とびっきり寂しい旅に・・・

最新の文章
リンク
みなさまの声
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
目次
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。