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キラキラ 275

 奈月は実感を込めてそう言った。
「で、そうやって毎晩しおりを読んでるうちに、他にもいろんなことが思い浮かんできたんです。何かと濃かった大学時代が終わって、私は佐賀に帰ろうとしている。私なりに勉強もしたけど、それよりも、恋をして、初めて男の人と付き合って、それから先輩と出会って、麻理子さんを恨んだりした。そんな私の大学時代が、フォトムービーみたいに次々と頭の中に浮かんでは消えていきました」
 旅に出る前になると故郷が恋しくなる。それと同じように、おそらく死ぬ前には、たとえどんなにつらい人生であってもすべてが恋しくなつかしくなるだろう。僕と奈月が所属しいていた研究室の教授が、退官パーティーの時の挨拶で語ったことを今でも覚えている。
「思えば、瞬間的に発生した竜巻のような、いえ、真夏のスコールのような、とにかくそんな大学時代でしたね」と奈月はつぶやいた。「それと、しおりを読んでいくうちに、『源氏物語』の場面もたくさん出てきました。そこに引用してある話はもちろんですが、旅行中に東山君が夢中になって語っていたこぼれ話みたいなことも、次から次へと思い出しました」
 奈月はまた、僕の知っている彼女の姿に戻ってきたようだ。立て板に水のごとく、滑らかに言葉が出てくる。だが僕には、彼女がいったい何を伝えようとしているのか、依然としてはっきりとしない。
「私が六条御息所と重なるところが多いなってしみじみと感じたのも、実はこの時、しおりを読みながらなんです。おそらく、4年間の大学生活に別れを告げるということによって、感傷的になったりしたんだろうと思うんです。で、そうやって、六条御息所に引き込まれるようにして読むようになってから、私は、東山君のしおりじゃ足らなくなって、部屋に置いてあった『源氏物語』を読み込むようになっていました」と奈月はいくぶんか深刻さを帯びた声でそう言った。
「原文に書かれた御息所の言葉で、どうしても引っかかるところがあったんです」
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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