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キラキラ 276

 すると、再び風が吹いてきて、境内の全ての草木を揺らした。僕と奈月の前に茂る榊の枝も、乾いた音を立てはじめた。さらさらさら・・・と。
 そのうち、それは、まるで榊の枝が僕の心を撫でている音のようにも聞こえた。僕の心がその音になにがしかの反応を示したようだ。奈月は目の前に垂れ下がる枝にそっと手をあてがい、やさしい手つきでそれを折った。その瞬間、風がぴたりと止んだ。
「六条御息所は、源氏に未練を残したまま、娘と一緒に伊勢へと下りました。でも、そんな御息所にも救いがあった。同じく須磨へと退去した源氏からの手紙です。長いこと会うことがなかった2人の関係が、文通できるまでに復活したのは、この野宮での一晩があったからなんです」と奈月は言った。風が止んだばかりの境内はどこかひんやりとしていて、ここへ歩いてくるのに少し汗ばんだシャツをいつのまにか乾かしている。
「伊勢に下った六条御息所は、斎宮として神に仕える娘の横で、もちろん源氏のことを思っていました。彼女たちの住居のあった場所は内陸に入ったところでしたが、神への供え物として海女たちが獲った魚介や海藻が頻繁に送り込まれていましたから、常に磯の香りに包まれていました。六条御息所は、その香りを感じるたびに、海でつながった、須磨にいる光源氏のことを思い出したのです」
 奈月はそう言い、榊の葉をいとおしげに撫で始めた。そうして、そこに何かが透けて見えるかのように、物思いに耽っている。
「六条御息所には、源氏とのいろいろな想い出がありました。琴を弾き合ったり、和歌を読み合ったり、それからさまざまな話題で盛り上がったりしたこと。彼女にとって、亡くなった夫である前の皇太子も含めて、源氏ほど話していて熱い思いが込み上げてくる人はいませんでした。六条御息所にとって源氏は、たった1人の、すべてを包み込んでくれる男性だったんです」
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