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キラキラ 283

「その和歌の意味を、もう1度教えてくれないかな」と僕は言った。その時、口の中が不気味に湿っているのを自覚した。
 すると奈月は穏やかな言いぶりで教えてくれた。
「和歌の最初にある『うきめ刈る 伊勢をの海人(あま)』というのは、六条御息所が自分のことをそう言ってるんです。伊勢に下って、憂き目、つまりつらい思いをしている私のことを想像してくださいと光源氏に訴えかけてるんです。昨日も言いましたが、海人とは、海に潜って海産物を取る女性のことですよね。でも、当時、伊勢の海人たちは、神に献上する海産物をとっていたために、神聖な職業人だったんです。その海人に掛けられている言葉があります。世をはかなんで出家した女性である『尼(あま)』です。つまり六条御息所は、源氏への和歌の最初に、伊勢神宮に仕える神聖な身であるということと、人知れずつらい思いをしているという自らの2つの境遇を同時に詠み込んだんです」
 次第に解きほぐれていく僕の頭の中に、昨日見た須磨の海の情景がよみがえってきた。浜辺に吹く松風、照りつける太陽、磯の香り。それから瀬戸内海とは思えないほどの広い海。
 奈月は僕の反応を気にするふうでもあったが、すぐに和歌の説明に戻った。
「それから、和歌の後半部分ですよね。私の心に引っかかったのは、まさにこの部分なんです」と前置きをし、右手に持った榊の枝を両手で包み込むようにした。
「『もしほたるてふ 須磨の浦にて』というところに、秘密が隠されていることに、私は気づいたんです。そしてそれは、六条御息所が意図的に仕組んだ秘密だと直感しました。何のために? それは、彼女の心の一番深いところで悩ませている光源氏に、その秘密を打ち明けるためにです」
 奈月はそう言い、咳払いをした。だがそのほんの小さな音は、僕の心の真ん中に落ちた。
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Author:スリーアローズ
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