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キラキラ 287

 すると奈月は、今まで胸に抱えていた榊の小枝をひらりと大地に落とし、その後で、低く震えるような声でこうつぶやいた。

もの思ふ人の魂はげにあくがるるものになむありける

 僕の腰の辺りからゾクゾクと駆け上がった不吉な冷たさが、ゆっくりと首筋に到達する前に、奈月はいきなり僕の胸の中に飛び込んできた。これまでで一番大きな声で、危ない、と聞こえたが、僕にはそれを聞き流すことしかできない。
「『宿世』とは残酷なものです。こんなに人を好きになっても、どうしても結ばれない恋があるんですから」と奈月は僕の胸元に顔を押しあてて、冷静に、それでも十分に哀感を込めて言った。
「私はずっと物語の主役でいたかった。いいえ、主役でなくてもいい、せめて2番目・3番目の役を与えてほしかった。でも、それすらも許されなかったんです」
「それって、『源氏物語』の話だよな」と僕は、奈月の髪に頬をすり寄せながら聞いた。
 すると、彼女は見当はずれのことを話し出した。
「あなたが須磨・明石にお流れになったのも、『宿世』だったんでしょう。私と似たところのある明石の君と出会い、そのことによって、彼女は物語の2番目に駆け上がっていったのです。そうして、私は、彼女と引き替えに、物語から退出させられ、人々からも忘れられていった。その現実を受け容れるのに、どれほどつらかったか。きっと、私の叶わぬ思いは、そのうち諦めに変わり、やがては葬り去られてゆくのでしょう。昨日、あなたに言った通りです。ただ一さいは、過ぎて行くだけなのです」 
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Author:スリーアローズ
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