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キラキラ 291

 それで僕は、「何が遅いの?」とそのままを聞き返した。
 奈月は「すべてが手遅れです。もう、すべてが境界線を越えて、次に進んでしまいました」と応えた。やはり、哀しげだった。
「奈月が何を言いたいのか完全には分からないけど、すべてが手遅れということはないだろう」と僕は語気を強めた。だが奈月は何も応えぬまま、ひたすら僕の胸に顔をうずめるだけだ。そのぬくもりだけは、僕の肌に直接伝わってくる。そのうち、人知れず彼女の抱え込んできた哀しみも一緒になって伝わってくるように感じられてきた。奈月はそれを丸ごと僕に届けようとしているのではないかと想像させるほど、彼女は肌をすり寄せるように密着してきた。
 どれくらい時間が経っただろう。奈月は顔を僕の胸からふと離し、「してください」と言ってきた。
 その瞬間、また、危ない、という言葉が森のどこかで聞こえた。すべてを細かく考えることが面倒臭くなっていた僕だが、しばらく奈月と抱き合っているうちに心が整理されたのかもしれないし、あるいは彼女を受け容れることはそんなに細かい問題なんかではないと本能的に判断したのかもしれない。僕はその声にびくりと反応した。
「でも、さっき、奈月は、これ以上はやめておこうって言ったよね?」と問いただすと、彼女は、うつむいたまま、「もういいんです」と小さく答えた。
「あれからいろんなことが先に進んだんです。私はもう、あの時の私ではない。今言った通りです。すべてが手遅れなんです」 
 僕には彼女の言う意味が、全く理解できなかった。
「ここで私を抱いてください。今という時間を刻みつけておきたいんです」と奈月は、さっき六条御息所に向けて言ったようなことを、彼女自身に対して言った。
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スリーアローズ

Author:スリーアローズ
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